防災・減災への指針 一人一話

2013年11月21日
「減災リサーチパーク構想」への期待
技術研究組合制御システムセキュリティセンター
佐藤 明男さん

復興とインフラ、ライフラインの基盤形成

(聞き手)
 現在の所属を教えてください。

(佐藤様)
私は三菱総合研究所で主任研究員をしています。4年前は、経済産業省の商務情報政策局で情報セキュリティ政策室の課長補佐を務めるなど、研究に従事してきました。
アメリカなど海外を見ると、制御システムセキュリティの検証施設が備わっていますが、日本にはまだそういうものがなく、少し手薄になっているのではないかと感じていました。
今後は情報セキュリティの政策のあり方や、どういった方向性が重要なのかという事を考えていく必要があると思います。

(聞き手)
震災復興には何が必要だとお考えですか。

(佐藤様)
震災復興のためには、重要なインフラや工場など、ライフラインの基盤を形成する事が第一だと思います。
経済産業省にいた時には、サイバーセキュリティ対策を考える組織を運営していました。サイバー攻撃を受けると、震災時同様の混乱を招く恐れがありますので、今後、セキュリティ施設を運営する事は、国で一丸となり取り組んでいくべきではないかと思います。

(聞き手)
多賀城市に赴任されての感想はいかがでしょうか。

(佐藤様)
多賀城市は復興が早かったのではないかと思います。
震災直後の平成23年5月か6月に来た時は、工場の目の前に車の山があり、泥が壁の至る所に付いていて、これで本当に精密機械などの復旧は出来るのかと思っていたのですが、よくここまで立ち上がったと感じています。
市長さんも積極的に、復興や減災に取り組まれていて、綺麗なまちになっています。その次の段階というのも構想されていると思います。

(聞き手)
多賀城市は、海に近いという印象はありましたか。

(佐藤様)
こんなに海が近いとは思いませんでした。
それだけに、今回のような大きな地震でも、すぐに津波が来ると意識された方はほとんどいらっしゃらなかったというのが実情だと思います。

ベースラインを決めての復興事業推進

(聞き手)
多賀城市の復興は進んでいるように感じられますか。

(佐藤様)
多賀城市はそう感じられますが、他の自治体はまだまだこれからという印象を受けます。
高台には家が建っていますが、海に近い場所は手付かずという様子で、非常に二極化していると思います。
多賀城市のように、道路を直すなどのベースラインを決めていかなければ、欲張り過ぎてしまい、全体の復興というのは厳しいのではないかと思います。
また、全部を同時に進めていくという形では計画倒れになる可能性もあるので、国にいた人間として見ると、全部建て替えるのではなく、比較的新しいものは何とか残して再建していくという方針でないと、予算要求が出来ないと思います。その後、余裕が出来たら、次のステップに進む必要はあるのではないかと考えています。

(聞き手)
以前に何か災害の経験や体験はありましたか。

(佐藤様)
ありません。大きな地震というのは今回初めて経験しました。

制御システムセキュリティの防御を復興とともに検証することの意義

(聞き手)
 今回の震災では、どのような経験をされましたか。

(佐藤様)
今回は未曾有の自然災害という事で、工場のシステムが停止してライフラインも途絶し、製品が供給出来なくなってしまったほか、製造に関する情報が消失してしまうなどの経験をしました。
実際に震災になって、初めて、どれだけ被害が甚大であるか身を持って感じました。
その経験をして、やはり、自然災害の対策に取り組む事も必要ですが、サイバーセキュリティ、サイバー攻撃というものに対しても、目に見えない恐怖という面ではある意味で共通していると思いました。
例えば、制御システムのプラントの中心部を攻撃されてしまえば、同じような現象が起こり得るわけですから、サイバー攻撃も想定外とはせずに、自然災害に加えて、サイバーの物理的な対策というのもしっかりと固めていければ、日本を非常に強固にするものになると思います。
ですから、多賀城市が先駆けとなって、震災復興と平行して、サイバー攻撃に対する防御に取り組んでいければ、それは大変な意義があることです。

(聞き手)
注目度もかなり高いのではないでしょうか。

(佐藤様)
開設以来、来場された方だけでも、6カ月間で130組織ほどの方が来られて、総勢550人ほどは訪問されています。

(聞き手)
訪問には海外からの方もいらっしゃいますか。

(佐藤様)
海外からも11組織ほど来ています。注目度はかなり高いと思います。

(聞き手)
震災関係での注目度も高いのでしょうか。

(佐藤様)
震災については、海外でも関心はあるのではないかと思います。
イギリスからいろんな人たちが来られるので対応しているのですが、この施設では、サイバー攻撃で、震災と同じ状況をデモンストレーションするという事が簡単に出来てしまうので、サイバー攻撃の恐ろしさを体感すると、やはり皆さん凄く関心を持たれていました。
実際のプラントを模したミニチュア版では、値が正常通りに動いていると思っても、実際はそうではなかったという攻撃の仕方をすることがあります。
本当に怖いのは形跡すら残さない、攻撃されている事もわからないという事だと思います。知らず知らずに情報が盗まれ、急に何かの重要なタイミングに合わせて攻撃されてしまうという可能性も有り得るという事を、常に脳裏に置いて、その可能性を排除しなくてはいけません。

(聞き手)
 多賀城市の、今後の復旧・復興に向けてお考えがあれば教えてください。

(佐藤様)
減災や防災の取り組みの一環として、サイバーセキュリティの部分というのが、私たちが貢献していける分野なのではないかと思います。
現象としては、震災と同じような事が起きるという啓発や、皆さんにも意識してもらえるような取り組みを、この多賀城市から始めていきたいと思います。
物理面と論理面といいますか、自然災害だけでなく、ネットを通してサイバーの方からも脅威があるという事で、ある意味、全方位的な形で準備を強めていく必要があると思います。
今、見えないところを検証し、評価するという施設も準備しているところです。セキュリティ対策として、安全レベルの評価認証を発信していく事は国内外問わずニーズがあるでしょう。
どこでも検証出来ない部分を、多賀城市の制御システムセキュリティセンター(CSSC)では検証出来るという、専門的なブランドが付けば、世界的に、日本の製品は安全だという事を、直接的に提示出来ると思います。
また、海外からも視察に来てもらい、安心とブランド力をPRしていければと思います。
そして、震災の経験から、そういった事を加味した装置や機能、セキュリティの事も考えていくべきだと思います。
敵は、その裏をついて、安心したところを攻撃してくるわけですから、対策をしているという姿勢を示す事は重要です。

サイバーセキュリティ事業を復興・減災事業と一環で行う「減災リサーチパーク構想」

(聞き手)
具体的に事業概要などをお話して頂きましたが、震災に関連する事業の取り組みについて、教えてください。

(佐藤様)
多賀城市の減災リサーチパーク構想が一番大きいでしょう。
サイバーセキュリティ事業を震災復興と減災対策の一環として行うという事を考えています。
自然災害を受けて、さらにサイバーの影響まで起きたら、復興の立ち上がりに非常に時間がかかります。
あらかじめ取り組んでおく事によって、被害を最小限に食い止められると思います。
要するに、震災対策の考え方と同じで、完全に大丈夫とは言えませんが、最低限のレベルは設備を整えておくべきなのです。
そして、事業をしていく上で守らなければならない重要な情報資産に優先順位をつけ、対策に取り組んでいくということを研究開発の成果として提供していきたいと思います。
マニュアルが整備され、検証するという事で、気付きの場にもなるかもしれません。
ですから、震災対策に合わせたサイバー攻撃の防御に対する取り組みというのは、世界に対しても大きな発信力になるでしょう。
減災の方に目がいくかもしれませんが、その裏で、こういった可能性もあり得るという事を想定して、多賀城市はそこまで考えて復旧・復興を進めているとなれば非常に高い関心を生むと思います。
重要な事は貴重な資産をしっかりと守っていく事です。
ウイルスに感染したとしてもシャットダウンすれば大丈夫と考える方もいるでしょう。
しかし、実際には現象として、数値や電気、空調を変えられて操作されていたという事もあります。

(聞き手)
こちらの組合には名称が付いているのでしょうか。

(佐藤様)
技術研究組合といいます。21社が組合員になっています。
通信系の研究をされている企業がほとんどで、東北電力のグループ会社やトヨタ関連、コンピュータや研究機関など非常に多くのセキュリティベンダーと対応しています。
大学も協賛していて、国も応援していますし、制御システムを海外に向けて進出しようと考える企業も少なくないですから、互いに競合他社である訳です。
セキュリティインフラとして同じ研究開発所で取り組もうという組織は今までなかったと思います。
それぞれの会社から素晴らしい技術者を送りだし、今後ビジネス展開されるという事もあると思います。
設立時は8社だけでしたが、国が発起して、日本の製品やセキュリティ体制を海外に示す事は必要だと粘り強く説いて来ました。
今の副社長が凄く理解のある方で、色々と案をくださいましたが、お金も掛かる事ですし、出来る前はイメージを持っている人たちもいませんでしたから大変でした。
セキュリティの分野で気付きを与える場というのは今まで日本に少なかったと思いますが、サイバーに対して強固なイメージを付け、ブランドという器が出来たので中身を徐々に充実させていきたいと思います。

「インフラを守る」という意識の大切さ

(聞き手)
一般の見学受け入れはされていますか。

(佐藤様)
今、多賀城市の小学校、中学生の社会科見学にも対応していこうという話も出ています。
例えば、モニターでオペレータは正常値だから大丈夫だと思っていたら、実際のガスプラントでは圧力はどんどん上がっていて、気が付かないうちに圧力がたまり爆発するというような事を、子どもたちにはわかりやすく風船で体感してもらおうかと考えています。

(聞き手)
子どもたちは吸収が早いでしょうから、経験や体験を積む事は大事ですね。

(佐藤様)
今の子どもたちが将来、日本の重要インフラ、海外の重要インフラを守っていこうという意識をもって育ってほしいと思います。

(聞き手)
 この先、多賀城市が行う復興への取り組みとして、何か意見や考えはありますか。

(佐藤様)
インフラなどのベースラインはかなり整備されたと思いますので、今後は多賀城市が持っている教訓を海外に発信していく事に重点を置いて取り組んで行きたいと思います。
自治体やインフラのオーナー、プラントを持っている人たちなどが、多賀城市というブランドを掲げて減災とサイバーセキュリティの両端が出来る事をアピールして、全方位の働き掛けになっていければ最良です。
そして、そのような希望を持って取り組めば、更なる夢や目標を持って活動出来るようになるかもしれません。
例えば、中東の大企業が視察に来て関心を持ち、呼び込めるような場になれば、段々と海外から人を送り込んでさらなるビジネスも発展していくと思います。
ですから、将来に向けてこの場所に何か主となるものを提供出来れば、夢が広がっていくのではないでしょうか。
私たちは全部、この技術研究組合制御セキュリティセンター(CSSC)に留める気もないので、スピンアウトの会社を作ってもいいでしょう。
例えば、評価認証のビジネスがしっかり出来るようになれば、そちらにお任せしてもいいですし、一緒に出来るような形で持っていきたいという考えもあります。
国際標準化のルートも繋がっていますし、海外の評価機関ともCSSCの連携も済んで外堀は徐々に埋まりつつあるので、世界が繋がるようなビジネスを行う懸け橋となって、発信地になれるよう、是非貢献していきたいと思っています。